第8話:後半、監督が来た

当ページのリンクには広告が含まれています。
  • URLをコピーしました!

▶︎ 連載目次ページはこちら

前半が終わった。1-0でリードしている。

ハーフタイム、Fコーチがボードを持って選手たちに話しかけた。

「前半よかった。ビルドアップの形、ちゃんとできてたよ。後半も同じように——」

グラウンドの外から、足音が聞こえた。

監督だ。前半は所用で来られなかったらしい。ベンチに荷物を置きながら、スコアボードを確認している。

Fコーチの声が、少し小さくなった。

「——後半も、前半と同じように丁寧につないで」

「つなぐな」

監督の声が被った。

「前に蹴れ。相手の裏を狙え。今日の相手ならそれだけで崩せる」

選手たちは黙った。Fコーチも黙った。

Pはボードを見ながら思った。前半、Fコーチに言われた通りにやって、うまくいっていた。丁寧につないで、相手を動かして、スペースを使う。それで1点取れた。でも今、監督は「前に蹴れ」と言っている。

どっちでやればいいんだろう。

後半が始まった。Pは迷いながらボールを持った。


後半20分。2-0になっていた。

相手の裏へ蹴ったボールが、たまたま通った。走り込んだFWが決めた。

「そうだ! それでいい! 前に蹴れ!」

監督が叫んだ。

Fコーチはベンチで腕を組んでいた。何も言わなかった。

試合が終わった後、監督がミーティングで言った。

「後半よかった。相手のDFはロングボールいやそうだったろ?前に蹴ったら点が取れた。シンプルにやればいいんだよ」

Pは黙って聞いていた。

前半の丁寧なビルドアップの話は、出なかった。


翌週の練習。Fコーチがまたビルドアップの練習を始めた。

「前半みたいに、ゆっくりつないで——」

選手の一人がぽつりと言った。

「でも監督、前に蹴れって言ってましたよね」

Fコーチは少し間を置いた。

「……状況によって使い分けるんだよ」

誰も返事をしなかった。

Pはその「状況によって」という言葉を聞きながら思った。

試合中に、状況を判断している余裕はない。監督が来たら前に蹴る。Fコーチだけの時はつなぐ。それだけのことだ。


目次

グラウンドの外から、筆者が思うこと

以下は、指導者経験と保護者経験の両方を持つ筆者の個人的な見解です。正解は一つではないと思っていますが、参考になれば。


監督とコーチで言っていることが違う。子供はどちらに従えばいいの?

試合中の指示系統は一本化されているべきで、そうなっていないのはチームの構造的な問題です。ただ現実として、監督の方が立場が上である以上、試合では監督の指示が優先されやすい。子供が混乱するのは当然で、それは子供のせいではありません。

もし子供が「どっちに従えばいいか分からない」と言ってきたら、「試合中は監督の指示、練習中はコーチの指示」とシンプルに整理してあげるのが現実的だと思います。とはいえ、子供なりに「今は誰の言葉を優先すべきか」を空気で判断していることも多いと思います。

若手コーチが積み上げてきたものを監督が上書きするのはよくあることなの?

よくあります。特に試合になると「勝ちたい」という気持ちから、シンプルな戦術に戻ってしまう監督は多い。若手コーチが育成の観点から積み上げてきたものと、監督の「今日勝ちたい」という気持ちが衝突する。

どちらが正しいとは言い切れないけれど、選手が混乱するのは避けてほしい。せめてハーフタイムの指示は一人が出す、というルールがあるだけで随分変わるはずなのですが。

保護者としてこの状況に気づいたら、どうすればいい?

基本的には静観するしかないと思います。チームの指導体制に保護者が口を出すのは難しいし、かえって状況を複雑にすることが多い。ただ、子供が「どうすればいいか分からない」と混乱しているなら、家で話を聞いてあげることはできます。

「どっちが正しいか」を判断するのではなく、「それは難しいね」と共感するだけでも、子供の気持ちは楽になります。いちばん怖いのは、子供が『ピッチ上の状況』ではなく『ベンチの顔色』を見てプレーする癖がついてしまうことです。指示の正解を当てるゲームになってしまった子は、高校年代に上がって『自分で判断しろ』と言われた途端に動けなくなります。

我が子が『サッカーの判断』を捨てて『大人のご機嫌取り』を始めたら、それは黄色信号です

こういうチームはさっさと移籍した方がいい?

指示の混乱だけなら、すぐに移籍を考えなくてもいいと思います。ただ、それが子供のモチベーションや成長に明らかに悪影響を与えているなら、環境を変えることも選択肢の一つです。

「続けるか移籍するか」の判断基準は、子供が「サッカーが楽しいか」どうかだと思っています。また、もし子供が『どっちにしろ怒られるから、もうどっちでもいいや』と、プレーに対する情熱や主体性を失っている(=感情の麻痺が始まっている)なら、そのチームにしがみつく理由は1ミリもありません。

大人の内紛の身代わりにされて、サッカーそのものを嫌いになってしまう前に、環境を変える準備(移籍や、フラットに評価してくれるスクールへの参加など)を親が主導してあげるべきです。

登場する人物・団体はすべてフィクションです。でも、完全な作り話でもないかもしれません。

サッカーと勉強を両立したい選手・保護者様へ

ジュニアユース年代は、練習や遠征で学習時間の確保が最も難しい時期。一方で、志望校合格に必要な「内申点」や「偏差値」の対策は待ってくれません。スキマ時間を活用し、効率よく「文武両道」を実現するための厳選サービスです。

効率よく「文武両道」を目指すならこちら

⚽日本代表 田中碧選手推奨!
22時以降、遠征バスでも受講可能。

\ スマホで個別指導 /

オンライン個別指導【そら塾】
練習スケジュールに完全対応。
内申ランクを上げる点数UP対策。

\ 1対1の定期テスト対策 /

家庭教師ファースト

泥汚れ・強烈なニオイ対策はこちら

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

教員免許(中高保健体育)を持つ40代の元サッカー指導者。自身もトレセンにひっかかるくらいには経験があり、大学ではサッカーの試合における”流れ”をテーマに研究。息子がジュニアユースでプレーしたことをきっかけに、首都圏のJ下部・街クラブ・中高サッカーを徹底調査。その備忘録として本メディアを開設。

目次