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9月の第2週。Tのクラスでは運動会の準備が始まっていた。
放課後、クラスメイトたちが体育館に集まって、フォーメーションを確認している。Tはその輪の中にいなかった。練習があるから、と伝えて先に帰った。

「またいないじゃん」
誰かがそう言ったのが、廊下に出る直前に聞こえた。聞こえなかったふりをした。
グラウンドに着いてボールを蹴りながら、Tはぼんやりと思った。

運動会の係、何だったっけ。参加種目は…たしかリレーの選手だった気がする。
でも練習に参加できていないから、走る順番もバトンの渡し方も、よく分かっていない。
当日、何とかなるだろう。毎年そうしてきた。
10月の中旬。定期テストまで2週間というところで、チームのスケジュールが貼り出された。
テスト前日まで、練習が入っていた。
Tは表を見ながら、頭の中で計算した。数学の進みが遅い。英語の単語も覚えきれていない。このままでは間に合わない。

「テスト前、少し練習減らせませんか」
言えなかった。先月、別の選手が同じようなことを言いかけて、コーチに「みんな同じ条件だから」と言われているのを聞いていたから。
みんな同じ条件。
でも、みんな同じ条件ではない、とTは思った。推薦が決まっている子にとって、このテストの結果はほとんど関係ない。自分にとっては、内申に直結する。同じ練習をして、同じテストを受けて、結果が持つ意味が全然違う。
それでも、言えなかった。
テスト当日。Tは手応えのない答案用紙を出して、教室を出た。
帰り道、母親から

「どうだった?」
とLINEが来た。

「まあまあ」
と返した。
本当のことは書かなかった。数学は半分も解けなかった。英語の単語は半分しか覚えられていなかった。練習から帰って、ご飯食べて、風呂入ったら22時を過ぎていた。そこから勉強を始めても、頭に入らなかった。

「サッカーと勉強、両立できてる?」
母親からまたLINEが来た。
Tはしばらく画面を見つめてから、

「できてる」
と返した。
運動会が終わった後、クラスの打ち上げがあった。Tは練習があって行けなかった。

「お前、運動会も来なかったじゃん」
とクラスメイトに言われた。

「サッカーで」
とTは答えた。

「いつもサッカーじゃん」
笑いながら言われた言葉だったけど、Tには笑えなかった。
サッカーを言い訳にしているわけじゃない。でも、サッカーを言い訳にしているように聞こえる。そしてそれは、間違っていない気もした。

