第13話:「辞めたい」が、言えなかった

当ページのリンクには広告が含まれています。
  • URLをコピーしました!

▶︎ 連載目次ページはこちら

「辞めたい」と思ったのは、一度や二度じゃなかった。

最初に思ったのは、中1の秋だった。練習がきつくて、コーチの怒声が怖くて、グラウンドに行くのが憂鬱になっていた。でもその頃、親が夕飯の後にぽつりと言った。

今月また遠征費か。まあ、しょうがないけど

Mは黙って聞いていた。

合宿の案内が来るたびに、金額が書いてあった。1泊2日で2万円。3泊4日で5万円。子供経由で連絡が来るから、いくらかかっているか全部知っていた。月謝も、スパイクも、ユニフォームも。トータルでいくらになるか、なんとなく計算できるようになっていた。

これだけかけてもらってるのに、辞めたいとは言えない


練習後のミーティングで、コーチが言った。

弁当づくりや洗濯だけじゃなく、お前らの親、月謝も遠征費も合宿費も、全部出してくれてるんだぞ。その分、関東大会、全国大会行って恩返ししようぜ

みんなが「はい」と答えた。Mも答えた。

親もそう思ってるのかな。恩返しできてない俺は……

ミーティングが終わって、Mはグラウンドを出た。その言葉が、帰り道ずっと頭から離れなかった。


中2になって、チームへの不満は積み上がっていた。試合に出られない日が続いていた。練習が楽しくなくなっていた。

でも言えなかった。

Nは仲のいい友達だった。きつい練習も、理不尽な怒声も、一緒に乗り越えてきた。Nがいるから続けてこられた部分もあった。

俺が辞めたら、Nはどう思うんだろう

しかも、少し前に別の選手が辞めた時のコーチの言葉を聞いていた。

あいつ、結局根性なかったな。まあ、いなくても困らないけど

辞めたら、俺もそう言われるんだろうな


ある夜、Mは自分の部屋で計算してみた。

チームを辞めて、その時間を勉強に使ったら。月謝と遠征費がなくなったら。サッカー推薦で高校にいくより、難関大学や人気大学、海外の大学など進路の選択肢が広がる高校に行けるんじゃないか。「サッカーに捧げた時間の、正直な話」で読んだことが頭をよぎった。

なんで俺、こんなに重たく考えてるんだろう

たかが習い事だ。プロになれるレールに乗っているわけでもない。辞めようと思えば辞められる。本来はそれだけの話のはずだ。

でも、朝早起きして弁当を作ってくれる親の顔が浮かんだ。深夜に洗濯機を回してくれている音が聞こえてきた。

言えない

結局、その夜も「辞めたい」は言葉にならなかった。


目次

グラウンドの外から、筆者が思うこと

以下は、指導者経験と保護者経験の両方を持つ筆者の個人的な見解です。正解は一つではないと思っていますが、参考になれば。


子供がなかなか本音を話してくれない。どうすれば話してくれるようになる?

「話してくれない」のではなく「話せない理由がある」と考えてほしいです。お金の話を子供の前でしていないか。「続けることが大事」という空気を出していないか。辞めた選手の話を否定的にしていないか。

子供は全部聞いています。全部見ています。「辞めてもいいよ」という言葉を一度でも言っておくだけで、空気が変わることがあります。

合宿費や遠征費の連絡が子供経由で来る。金額を知られても問題ない?

知られること自体は問題ないですが、その後の親の反応が大事です。「また高い」「しょうがない」という言葉が子供の前で出ると、子供は「お金のことで迷惑をかけている」と感じてしまう。金額を知っている子供が「辞めたい」と言えなくなる原因の一つになります。

お金の話は、できるだけ子供のいない場所でするか、「これはサッカーへの投資だから気にしなくていい」と明示しておく方がいいと思います。

「こんだけお金かかってるんだから頑張れ」は言ってはいけない?

冗談でも言わない方がいいと思っています。子供にとっては冗談に聞こえない。「お金のために続けなければならない」というプレッシャーになってしまう。頑張ってほしい気持ちは伝わりますが、お金を理由にするのは避けてほしいです。

辞めた選手のことをチームが悪く言っている。どう対応すればいい?

子供がその場面を見ていたなら、家で「辞めることは悪いことじゃない」とはっきり言っておいてほしいです。「辞める=根性がない」という空気の中にいると、子供は辞めることへの罪悪感が強くなっていく。辞めた選手を悪く言うチームの文化自体、問題があると思っています。

子供がサッカーを続けているのか、惰性で続けているのか分からない。

「今サッカー楽しい?」と直接聞いてみてください。「楽しい」と答えたら続ければいい。「分からない」「別に」という答えが返ってきたら、もう少し掘り下げてみる。「辞めてもいいんだよ」という言葉をセットで伝えておくと、本音が出やすくなります。

親としてサッカーにどこまでコミットすればいい?

私個人としては、少し引いた方がいいと思っています。送迎、弁当、洗濯、遠征の付き添い。全部やってあげたい気持ちは分かります。でも、親が深くコミットするほど、子供は「辞めたい」と言いにくくなる。たかが習い事、たかが遊びだ、というくらいの距離感を親が持っていると、子供も「辞めたくなったら言える」と思いやすくなります。

プロになれるレールに乗っているわけでもない。辞めてから勉強すれば、難関大学・人気大学・専門学校・海外と進路の選択肢が広がる高校に行ける可能性だってある。その事実を、親自身が知っておいてほしいです。

登場する人物・団体はすべてフィクションです。でも、完全な作り話でもないかもしれません。

サッカーと勉強を両立したい選手・保護者様へ

ジュニアユース年代は、練習や遠征で学習時間の確保が最も難しい時期。一方で、志望校合格に必要な「内申点」や「偏差値」の対策は待ってくれません。スキマ時間を活用し、効率よく「文武両道」を実現するための厳選サービスです。

効率よく「文武両道」を目指すならこちら

⚽日本代表 田中碧選手推奨!
22時以降、遠征バスでも受講可能。

\ スマホで個別指導 /

オンライン個別指導【そら塾】
練習スケジュールに完全対応。
内申ランクを上げる点数UP対策。

\ 1対1の定期テスト対策 /

家庭教師ファースト

泥汚れ・強烈なニオイ対策はこちら

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

教員免許(中高保健体育)を持つ40代の元サッカー指導者。自身もトレセンにひっかかるくらいには経験があり、大学ではサッカーの試合における”流れ”をテーマに研究。息子がジュニアユースでプレーしたことをきっかけに、首都圏のJ下部・街クラブ・中高サッカーを徹底調査。その備忘録として本メディアを開設。

目次