第12話:サッカーが分からないから、見ている

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試合が終わった。

Lはグラウンドの端でスパイクを脱ぎながら、スタンドの方をちらっと見た。

親が来ていた。試合中もずっとそこにいた。何をしているのかよく分からないまま、ただ見ていた。

帰りの車に乗り込むと、すぐに聞かれた。

今日どうだった?

(どうだった、って言われても……何を答えればいいんだろう)

まあ、普通

あの、コーチがすごく怒鳴ってたけど、大丈夫なの?

(あれは俺だけじゃないし、いつものことなんだけどな……)

別に、みんなそんな感じだから

そうなの?なんか見てて心配で

(心配してくれてるのは分かるけど、説明するのもめんどくさい)

Lは窓の外を見た。それ以上何も言わなかった。


しばらく沈黙が続いた。

ねえ、今日はどうだったの? 私、よく分からなくて

父親がバックミラー越しにLを見た。

後半、いつもより縦に多めに仕掛けてたな。コーチから指示あったのか?

(え……お母さんが父さんに聞いてたんだ)

……自分で判断した

そうか。相手がカットイン警戒してたもんな。何度か完全に逆とっててよかったよな。

母親が前を向いたまま言った。

【セリフ】そうなの、すごいじゃない

(……なんか、悪くない)

母親はハンドルを握ったまま、前を向いていた。でも口元が少し緩んでいるのを、バックミラー越しにLは見た。


翌週の試合。

また親が来ていた。相変わらず、試合中は何が起きているか分からないまま見ていた。コーチが怒鳴るたびに、少し体が固まっていた。

試合後、スタンドを降りながら、親は隣にいた別の保護者に小声で聞いていた。

あの、うちの子、今日どうでしたか? 私、サッカーよく分からなくて

その保護者は経験者だった。

前半はフォーメーション噛み合ってなかったのか苦労してましたけど、後半ボールの受ける位置よくなってましたよ。後半ボールがうまくまわったのは、息子さんの貢献が大きいですね。

そうなんですね……ありがとうございます

Lはその会話を、少し離れたところで聞いていた。

(……聞いてたんだ)

恥ずかしいような、悪くないような、不思議な気持ちだった。


ある夜、リビングでのことだ。

ねえ、好きな選手って誰?憧れてる人いる?

(急になんで)

デ・ブライネかな

へえ、どんな選手なの?

(説明するの難しいんだけどな……)

パス、めちゃくちゃうまいんだよ。ボール持った時の視野が広くて、誰も気づかないところに出せる

ふうん。見てみる

その夜、Lが部屋から出てきたら、母親がタブレットでデ・ブライネのプレー集を見ていた。

(え、本当に見てるんだ)

翌週の試合。前半の終わり際、Lがボールを受けてトラップで相手をはがし、長めのスルーパスを通した。

あ、今の! デ・ブライネみたいだった!

歓声の向こうから、いつもの聞き慣れた声が聞こえた気がした。

(……分かるんだ)

Lはそのまま走り続けながら、少しだけ笑った。


目次

グラウンドの外から、筆者が思うこと

以下は、指導者経験と保護者経験の両方を持つ筆者の個人的な見解です。正解は一つではないと思っていますが、参考になれば。


試合を見ていても何が起きているか分からない。どこを見ればいい?

戦術や判断の良し悪しは、経験がないと分かりにくくて当然です。無理に理解しようとしなくていい。それよりも「我が子が楽しそうか」「生き生きしているか」「疲れすぎていないか」を見る方が、長い目で見て大事なことが分かります。細かいプレーの良し悪しより、子供の表情を見ていてほしいです。

試合後に「どうだった?」と聞いても「別に」しか返ってこない。

中学生男子に「どうだった?」は、答えにくい質問です。「よかった」「悪かった」で終わってしまう。聞くなら具体的に「あそこ速かったね」「あのプレー何だったの?」という形の方が返ってきやすい。ただ、それも難しければ、無理に聞かなくていい。帰りの車で黙って音楽を流しているだけでも、一緒にいることは伝わっています。

サッカーが分からないのに、子供のよかったところが見つけられない。どうすればいい?

子供に「好きな選手、憧れている選手は誰?」と聞いてみてほしいです。その選手のプレー集をYouTubeで見てみる。戦術は分からなくていい。その選手の特徴的なプレー、ターン、ドリブル、パス、切り替え、ダッシュ。それを頭に入れておいて、試合中に似たプレーが出た時に「今の〇〇みたいだった」と言える。

それだけで全然違います。パートナーが経験者なら、試合後に「今日よかったところ教えて」と聞いてから子供に伝えるのも一つの方法です。

コーチが試合中にずっと怒鳴っている。我が子だけが怒鳴られているのか心配。

ほとんどの場合、我が子だけではありません。試合中に褒めながら指示を出すコーチは少なく、ダメ出しと指示を叫ぶのが通常運転のチームが多い。子供もそれに慣れています。ただ、帰りの車で子供の様子を見て、明らかに落ち込んでいる時は「今日しんどそうだね」と一言かけるだけで十分です。

「期待しているから厳しくする」「怒られ慣れさせるため」と言われた。それって正しいの?

正直に言うと、私には判断しきれない部分があります。「期待しているから厳しくする」という指導者の気持ちは理解できる。高校年代でより厳しい環境に進む選手にとって、ある程度の耐性が必要という考え方も分からなくはない。ただ、「怒鳴ること」と「厳しい指導」は別物です。

高い要求を持ち、妥協しない指導は厳しくていい。でもそれは怒鳴らなくてもできる。「怒鳴ることで成長する」という根拠は、スポーツ科学的には支持されていません。最終的には、子供が「しんどいけど成長している感覚がある」と感じているかどうかだと思っています。「ただしんどい」だけなら、それは違う環境を考えるサインかもしれません。

試合中、応援の声をかけていいの?

「ナイス!」「切り替えて!」くらいは全然いいと思います。ただ、戦術的な指示や「なんであそこで行かないの!」という声は避けてほしい。子供は親の声も、コーチの声も、両方聞いています。応援してくれていることは伝わっているので、シンプルに「見てるよ」を示すだけで十分です。

登場する人物・団体はすべてフィクションです。でも、完全な作り話でもないかもしれません。

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この記事を書いた人

教員免許(中高保健体育)を持つ40代の元サッカー指導者。自身もトレセンにひっかかるくらいには経験があり、大学ではサッカーの試合における”流れ”をテーマに研究。息子がジュニアユースでプレーしたことをきっかけに、首都圏のJ下部・街クラブ・中高サッカーを徹底調査。その備忘録として本メディアを開設。

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