第11話:深夜の洗濯機が回っている

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23時を過ぎていた。

風呂から上がったKは、廊下の電気が消えているのを確認してから、そっとリビングに入った。喉が渇いていた。

台所の小さな手元灯だけがついていた。シンクの脇に、今日着ていたユニフォームとソックスが積み上げられている。泥がこびりついたまま持ち帰ってきたやつだ。

洗濯機の音がしていた。

(今日もウタマロで手洗いしてから入れてくれたんだ……)

Kは冷蔵庫から麦茶を取り出した。ありがとう、とは言えなかった。もう寝ていると思っていたから。それだけじゃなくて、なんとなく言えなかった。そういう年齢になっていた。

麦茶を飲んで、部屋に戻った。


翌日は遠征だった。

前夜、Kは自分でバッグに荷物を詰めていた。

(スパイク、ユニフォーム、タオル……まあこんなもんでいいか)

ちゃんと入ってる?確認しようか

(って、もう確認し始めてるじゃん…自分でやるから大丈夫なのに)

替えのソックスは?補食は?

(忘れたら自分のせいだし、自分でなんとかするから……)

もう自分でやるって

でも忘れ物あったら困るでしょ

(困るのは俺しだから別にいいんだけど……)

結局、バッグの中身は全部確認された。忘れ物はなかった。Kはそれに対して何も言わなかった。


翌朝6時。アラームが鳴る前に、台所から音がしていた。

Kは布団の中で目を覚ましながら、その音を聞いていた。包丁の音、冷蔵庫の開く音、弁当箱のふたが閉まる音。

(おにぎりとか買って食べるから、別に作らなくていいのに)

昨日の夜、Kはコーチからのラインを見ていた。「明日の集合時間、7時に変更」。送ってきたのが22時を過ぎていた。

(言おうとしたけど、もう寝てたし……朝でいいか)

朝になって、起き上がれなかった。重い体を引きずって台所に向かった。

集合、7時になったんだけど

(絶対「今それ言うの?」って言われる……)

しばらく間があった。

……今それ言うの?

(やっぱり言われた)

弁当は間に合った。

グラウンドへ向かうバスの中で、Kはイヤホンをつけながら思った。

(毎回これだな。言おうと思って、忘れて、朝になって、迷惑かけて。分かってるのに、なんでいつもこうなるんだろう)


帰宅したのは夜8時を過ぎていた。

遠征の疲れが足に残っていた。ご飯を食べて、風呂に入って、気づいたらソファで寝ていた。

気づくと11時だった。

部屋に戻ろうとして、脱衣所の前を通ったら、また洗濯機が回っていた。

(あ、今日のユニフォームも洗ってくれてる)

Kは自分の部屋に入って、ベッドに倒れ込んだ。

(勉強しなきゃ……でも、もう無理)

教科書を開いたまま、そのまま眠ってしまった。

(朝になったら、また洗濯物が畳まれてるんだろうな)


目次

グラウンドの外から、筆者が思うこと

以下は、指導者経験と保護者経験の両方を持つ筆者の個人的な見解です。正解は一つではないと思っていますが、参考になれば。


子供がLINEの連絡を共有し忘れる。どうすれば防げる?

正直に言うと、完全には防げないと思っています。中学生が22時に来たLINEを「親が寝てるから朝言おう」と判断するのは、ある意味で自然な判断です。ただ「朝になったら言う」が抜けてしまうのがパターン。うまくいっている家庭では「連絡が来たらすぐ転送する」というルールを作っているケースが多い。子供のLINEを保護者と共有するグループを作っておくのも一つの手です。

遠征前に急に「あれが足りない」と言ってくる。どう対処すればいい?

「遠征チェックリスト」を子供自身に作らせるのが現実的です。保護者が毎回チェックするのではなく、子供が自分で確認する習慣をつける。最初は一緒に作って、慣れてきたら自分でやらせる。失敗しても、その経験が次への学習になります。「前日までに自分で確認する」というルールを家庭で決めておくと、保護者の負担が減ります。

子供が「自分でやる」と言っているのに手を出してしまう。どこまで任せればいい?

難しいんですが、「失敗させる」という選択肢を持ってほしいと思っています。忘れ物をして困るのは子供自身。その経験が「次は自分でちゃんと確認しよう」につながる。親が毎回チェックしてしまうと、子供は「どうせ確認してくれる」と思って自分で考えなくなる。

「自分でやる」と言ったら、信頼して任せる。それが難しいのはよく分かりますが、中学生になったら少しずつ手を離していく練習が必要です。

練習から帰って食べてすぐ寝る、勉強しない。どこまで言えばいい?

「全部を求めない」のが現実的だと思っています。勉強・片付け・洗濯物、全部一度に言うと子供はシャットアウトする。「これだけはやってほしい」を一つに絞って、それだけを続けて言う。洗濯物の出し忘れなら、カゴを脱衣所に置いて「ここに入れるだけ」という環境を作る方が、言い続けるより効果的なことが多いです。

子供がなかなか「ありがとう」を言わない。親として悲しくなる。

言えない理由のほとんどは「思春期だから」です。感謝していないわけじゃない。Kが深夜に洗濯機の音を聞いて「今日もやってくれたんだ」と思ったように、ちゃんと見ています。ちゃんと分かっています。

ただ、言葉にできない年齢がある。「ありがとう」が言えるようになるのは、もう少し先かもしれません。でも、覚えています。全部。

送迎、洗濯、弁当づくり。保護者の負担が大きすぎる。限界を感じる。

限界を感じたら、正直に言っていいと思います。子供に。「今日はしんどいから弁当は買って」「ユニフォームは自分で洗って」。全部やってあげなければいけない、ということはない。

むしろ、自分でできることを増やしていくのが中学生として自然な成長です。「これは自分でやる」という線引きを、子供と一緒に決めてみてほしいです。

登場する人物・団体はすべてフィクションです。でも、完全な作り話でもないかもしれません。

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この記事を書いた人

教員免許(中高保健体育)を持つ40代の元サッカー指導者。自身もトレセンにひっかかるくらいには経験があり、大学ではサッカーの試合における”流れ”をテーマに研究。息子がジュニアユースでプレーしたことをきっかけに、首都圏のJ下部・街クラブ・中高サッカーを徹底調査。その備忘録として本メディアを開設。

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