▶︎ 連載目次ページはこちら
保護者会の帰り道、何人かの母親が駐車場で立ち話をしていた。

「うちはやっぱり文武両道で行かせたいんですよね」
Uの母親が言った。

「そうですよね、サッカーだけじゃなくて勉強もちゃんとしてほしいですよね」
Vの母親が頷いた。

「うちも同じです。サッカーと勉強、どっちも頑張ってほしくて」
Wの母親も言った。
三人とも「文武両道」という同じ言葉を使っていた。でも、少し話を聞いていると、全員が違うことを言っていた。
Uの母親が考えている「文武両道」は、いわゆる有名難関大学の附属高校のイメージだ。サッカーも強くて、勉強もできる。内申は最低でもオール4以上、当日の学力試験も必要。サッカーの実績だけでは入れない。本当の意味で両方を高いレベルで求められる環境。
Vの母親が考えている「文武両道」は、スポーツクラスのある私立高校のイメージだ。難関大学への進学実績は豊富であるが、スポーツクラスの存在はあまり表に出ていない。表向きは進学校で、文武両道を掲げている。ただスポーツクラスはオール3前後で入れる。一般クラスとは別の基準がある。サッカーの実績があれば、顧問同士のパイプで話がつく。
Wの母親が考えている「文武両道」は、もう少しシンプルだ。強豪校に推薦で入れて、そこでサッカーを頑張ってくれれば十分。勉強は「ちゃんとやってほしい」という気持ちはあるが、内申はオール3なくてもサッカー推薦で入れるなら問題ない。
三人とも「文武両道」という言葉を使っていた。でも求めている内申も、入り方も、高校のレベルも、全部違った。
その場に、Uがいた。
母親たちの話を聞きながら、ボトルの水を飲んでいた。
Uはオール4以上をキープしている。練習後に帰って、22時から勉強する。定期テストの前は睡眠を削って問題集を解く。それでもまだ足りないと感じている。
VはオールB3くらいだ。スポーツクラスを考えているから、それで十分だと言っていた。「俺、内申とかあんま関係ないし」と言っているのをUは聞いたことがある。
Wにいたっては、内申の話をほとんど聞いたことがない。推薦が取れればそれでいい、という雰囲気だ。
同じ「文武両道」という言葉の下で、全員が違う重さのものを背負っている。
Uはそのことを、誰にも言ったことがなかった。
帰りの車の中、母親が

「保護者会どうだった?」
と聞いた。

「俺らは聞いてるだけだし。普通」
とUは答えた。

「みんな文武両道って言ってたけど、うちはちゃんと両方頑張ってほしいからね」

「うん」
Uは窓の外を見ながら思った。
みんな、文武両道って言ってる。でも、みんな違うことを言ってる。
そして自分だけが、その言葉の重さを一番重く受け取っている気がした。

