第5話:俺、もう少しレベル下げてもいいかな

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夏から秋にかけて、チームの進路面談があった。監督に呼ばれて、Sは一人でミーティングルームに入った。

「内申見たけど、オール3はあるな。○○高校、どうだ。うちから毎年送ってるし、話は通しやすい」

○○高校は県内でも名の知れた私立強豪校だ。関東大会の常連で、卒業生にはJリーガーも何人かいる。チームとして毎年パイプを使っている。

Sは少し間を置いた。

「……考えます」

「悪くない話だぞ。セレクションも問題ないと思うし」

「はい」

ミーティングルームを出て、Sはグラウンドの端に座った。

本当のことは言えなかった。


Sが本当に行きたいのは、もう少し競技レベルを下げた高校だ。

強豪ではない。県リーグの中位くらい。ただ、そこなら試合に出られる。スタメンで出て、自分のサッカーができる。○○高校に行けば、おそらくベンチか、ベンチ外だ。あれだけのメンバーが集まる中で、自分が試合に出るイメージが湧かない。

サッカーを続けたい。でも、試合に出られないサッカーは、もうやりたくない。

ただ、それを監督には言えなかった。「せっかくパイプがあるのに」と言われる気がして。チームメイトにも言えなかった。「なんでレベル下げるの」と思われる気がして。


家に帰ると、父親が「面談どうだった?」と聞いた。

「○○高校どうかって言われた」

「おお、いいじゃないか。強いところだろ」

「うん」

「行けそうなのか?」

「うん。たぶん」

父親は嬉しそうだった。子供がサッカーで名前の知れた高校に行く。それが純粋に嬉しいのだ。

Sはそれ以上何も言わなかった。「試合に出たい」とも「レベル下げたい」とも言えなかった。父親を失望させたくなかったから。

母親は別のことを考えていた。

「○○高校って、大学の進学実績はどうなの?」

「サッカーが強いところだから、あんまり……」

「そっか。大学はちゃんと行ってほしいんだけどね」

三人が同じ食卓に座っていた。でも、見ているものが全員違った。

監督はチームの実績を考えていた。父親はブランドのある高校を喜んでいた。母親は大学進学を心配していた。Sは試合に出たかった。

誰も悪くない。ただ、Sの「本当に行きたい高校」を聞いた人間は、この日、一人もいなかった。


翌日の練習。Sはいつも通りボールを蹴った。

進路の話は、まだ誰にもしていない。


目次

グラウンドの外から、筆者が思うこと

以下は、指導者経験と保護者経験の両方を持つ筆者の個人的な見解です。正解は一つではないと思っていますが、参考になれば。


子供が「レベルを下げたい」と言ってきた。どう受け止めればいい?

まず、その気持ちをちゃんと聞いてあげてほしいです。「なんでレベル下げるの」と言う前に、なぜそう思っているのかを。「試合に出たい」「自分のサッカーがしたい」という気持ちは、弱さでも逃げでもない。むしろ自分のことをよく分かっている、という証拠だと思います。

強豪校でベンチを温め続けるより、少しレベルを下げて試合に出続ける方が、長い目で見て成長できるケースは多い。

チームの監督がパイプのある高校を勧めてくる。断っていいの?

断っていいです。監督が勧めるのはチームの実績のためでもある、ということは頭に置きながら。監督のパイプは確かにありがたいですが、最終的に高校3年間を過ごすのは子供自身です。

「ありがとうございます。ただ、本人の希望で別の高校を考えています」と伝えれば済む話です。関係が気まずくなることを心配する保護者もいますが、それより子供の3年間の方が大事です。

強豪校でベンチより、レベルを下げて試合に出る方がいいの?

一概にどちらが正解とは言えません。強豪校で揉まれることで成長する選手もいる。ただ、試合に出られない環境でモチベーションを保ち続けるのは、想像以上に難しい。

特に「サッカーが楽しくなくなった」という状態になってしまうと、取り返しがつかない。子供がどちらを望んでいるか、そこを一番大事にしてほしいです。

大学進学も考えると、サッカーの強さより進学実績の高い高校の方がいいの?

これは家庭の価値観によります。ただ、一つ整理しておきたいのは「サッカー推薦で入れる高校」と「大学進学実績が高い高校」は、多くの場合一致しないということです。サッカーで強豪校に行き、大学もサッカーで、という道を考えているなら話は別です。

でもサッカーは高校まで、大学は一般受験で、と考えているなら、高校選びの軸がサッカーだけでいいのかは、一度家族で話し合ってみてほしいです。

子供の希望と、親の希望と、チームの希望が全部違う。どうすればいい?

最終的に決めるのは子供本人です。チームの実績のために高校を選ぶ必要はないし、親の見栄のために選ぶ必要もない。ただ、子供が本当に何を望んでいるかを引き出すのは、親にしかできないことです。

「どこに行きたい?」ではなく「どんな高校生活を送りたい?」「3年間、どんなサッカーがしたい?」という聞き方をしてみてください。その答えの中に、正解があると思います。

登場する人物・団体はすべてフィクションです。でも、完全な作り話でもないかもしれません。

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この記事を書いた人

教員免許(中高保健体育)を持つ40代の元サッカー指導者。自身もトレセンにひっかかるくらいには経験があり、大学ではサッカーの試合における”流れ”をテーマに研究。息子がジュニアユースでプレーしたことをきっかけに、首都圏のJ下部・街クラブ・中高サッカーを徹底調査。その備忘録として本メディアを開設。

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