第3話:その話、うちには来てなかった

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「来週の練習、グラウンド変更になったって」

帰り際、MがチームメイトのNに声をかけた。

「え、聞いてない」

Nは首を傾けた。たしかに、連絡アプリには何も来ていない。家に帰って母親に聞いてみると、母親も知らなかった。

「Mのお母さんから聞いたんだけど、どこで知ったんだろう」

翌日、NがMに聞いてみた。

「お母さんがEコーチから直接聞いたって言ってた」


Mの母親とEコーチは、仲がいい。

悪い意味ではない。Mの母親はチームの運営をよく手伝っていて、コーチとも話す機会が多い。Eコーチも、相談しやすい保護者がいると助かる。互いによかれと思っている。

ただ、気づかないうちに情報の流れが偏っていた。

グラウンド変更の連絡が全体に届く前に、Mの母親だけが知っていた。Mの母親はMに伝え、MはNに伝えた。全体連絡が来た時には、すでに「知っている人」と「知らない人」が生まれていた。


それだけなら、まだよかった。

ある日の練習後、Eコーチがぽつりと言った言葉をMは聞いていた。

「来月のセレクション、参加人数絞ることになりそうで」

コーチは独り言のつもりだったかもしれない。あるいはMの母親に向けて言ったのかもしれない。いずれにせよ、Mはその言葉を聞いた。

家に帰ってから、Mは母親に確認した。母親は知っていた。

「言わないでって言われてたんだけど」と母親は言った。「でもあなたには教えておいた方がいいと思って」

Mは翌日の練習で、チームメイトの顔を見ながら思った。

(この中で、知ってるの俺だけか)

なんとなく、居心地が悪かった。


逆のことも起きた。

ある保護者がEコーチに、自分の子供の悩みを相談した。

「最近、練習に気持ちが入っていないみたいで」

と。

Eコーチは親身に聞いた。次の練習から、その選手への声かけを少し増やした。

それ自体は悪いことではない。ただ、その選手は気づいていた。コーチの声かけが変わったことを。そして、母親がコーチに何か話したのだろうということを。

グラウンドでコーチに声をかけられるたびに、なんとなく恥ずかしかった。

(お母さん、余計なこと言わないでほしい)

そう思ったが、口には出せなかった。


コーチと特定の保護者が仲良くなることは、自然なことだ。運営を手伝ってくれる保護者はありがたいし、相談できる大人がいるとコーチも助かる。悪意は、どこにもない。

ただ、情報が偏る。それだけのことが、チームの中に小さなひびを入れていく。

「なんであそこだけ知ってたの」「コーチに話したら親に伝わった」。そういう話は、子供たちの間でじわじわと広がる。

そしてMは、ある日こう思った。

コーチと仲のいい親を持つのは、思っていたより、楽じゃない。


目次

グラウンドの外から、筆者が思うこと

以下は、指導者経験と保護者経験の両方を持つ筆者の個人的な見解です。正解は一つではないと思っていますが、参考になれば。

コーチと仲良くなること自体はいいんじゃないの?

いいと思います。チームの運営を手伝ってくれる保護者はコーチにとって本当にありがたいし、相談できる大人がいることで、若いコーチが救われる場面も多い。ただ「仲がいい」が「情報が偏る」に変わった瞬間に、チームの空気が変わり始める。その境界線を意識しておいてほしいということです。

子供の悩みをコーチに相談するのはダメなの?

ダメではないです。ただ、相談する前に子供に一言確認してほしい。「コーチに話してもいい?」と。子供が「やめて」と言ったら、やめる。子供に黙って相談して、コーチの態度が変わったことに子供が気づいた時、子供が感じるのは「助けてもらった」ではなく「勝手に話された」という感覚になりやすい。

コーチと保護者の距離感って、どのくらいがちょうどいいの?

難しいんですが、「全員に対して同じ距離感」が一番健全だと思います。特定の保護者とだけ仲良くなるのではなく、全員とフラットに話せる関係。コーチ側も保護者側も、意識していないとどうしても気の合う人と近くなっていく。それ自体は自然なことなんですが、チームという場においては、その偏りが思わぬひびを生む。

結局、保護者はコーチとどう関わればいいの?

運営の手伝いは積極的にやってほしい。ただ、個別に情報をもらう関係にはならない方がいい。コーチへの相談は、子供に確認してから。そして、コーチから聞いた話を他の保護者や子供に話す時は、全体に関わる話かどうかを考える。それだけ意識しておけば、大きなひびは入らないと思います。

子供はグラウンドでも家でも、大人の関係性を全部見ています。「あの家だけ特別」という空気は、思っている以上に早く、子供たちの間に広がっていきます。

登場する人物・団体はすべてフィクションです。でも、完全な作り話でもないかもしれません。

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この記事を書いた人

教員免許(中高保健体育)を持つ40代の元サッカー指導者。自身もトレセンにひっかかるくらいには経験があり、大学ではサッカーの試合における”流れ”をテーマに研究。息子がジュニアユースでプレーしたことをきっかけに、首都圏のJ下部・街クラブ・中高サッカーを徹底調査。その備忘録として本メディアを開設。

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