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プロサッカーの世界では、監督が変わった途端に結果が変わることがある。
昨季まで優勝争いをしていたチームが、監督交代を機に急失速する。逆に低迷していたチームが、新監督の下で生まれ変わったように勝ち始める。戦術が変わったわけでも、選手が変わったわけでもない。ただ、「誰がチームを率いているか」が変わっただけで、結果が変わる。
それはジュニアユースも同じだ。

「Eコーチって、何年生まれなんだろ」
練習帰りの車の中で、Kの母親がぽつりと言った。

「大学生じゃないの。うちの子より10歳くらい上かな」
父親が答えた。

「なんか頼りないよね。先週の試合も、あの交代どういう意図だったんだろって思って」

「俺もそう思った。あそこはもう少し我慢すべきだったよな」
後部座席で、Kは窓の外を見ていた。
何も言わなかった。ただ、聞いていた。
翌日の練習。Eコーチがボードを持って戦術を説明している。

「ビルドアップの時、ボランチはここに立って——」
Kはコーチの声を聞きながら、昨日の車の中での会話を思い出していた。

(頼りない、か)
コーチの説明は続いている。悪いことは言っていない。むしろ理にかなっている部分もある。ただKの中で、その言葉がどこか遠くから聞こえてくる感じがした。
とりあえず、言われた通りにやっておこう。
それだけだった。
Kだけじゃない。
保護者同士の会話は、思いのほか子供たちに届いている。「Eコーチって、どうなの」「あの采配は疑問だよね」「若いから仕方ないけど」。グラウンドの隅で交わされるその言葉が、子供たちの耳に入り、じわじわと染み込んでいく。
コーチを「Eくん」と呼ぶ保護者がいる。コーチが保護者に深々と頭を下げている場面を、子供たちは見ている。
誰もコーチに反発しない。表面上は指示に従う。ただそこに、敬意も信頼も感謝もない。「とりあえずこなす」だけだ。
コーチの言葉が、半分しか届いていない。
結果は、じわじわと出てくる。
指示を「こなす」だけだから、自分で考えなくなる。うまくいかない時に「コーチのせい」にしやすくなるから、自分の課題として受け取れなくなる。練習の密度が下がり、個人としてもチームとしても上達が鈍くなる。
そして負け始める。

「やっぱりEコーチじゃ勝てないわよね」
保護者の間でその声が出始める。子供たちもその空気を感じ取る。コーチへの信頼はさらに下がる。
誰も悪意を持っていない。コーチは一生懸命やっている。保護者も子供の成長を願っている。選手たちも、サッカーが嫌いになったわけじゃない。
ただ、ある日Kはこう言った。

「なんか最近、練習行くのめんどくさいんだよね」
理由は、うまく言葉にできなかった。

