サッカーを頑張るお子さんを持つ保護者の方なら、一度は耳にする「トレセン」という言葉。 「選ばれた子が行く場所」というイメージはあるものの、「いつ選考会があるの?」「ブロックと地域の違いは?」「関東やナショナルにはどう繋がるの?」といった具体的な仕組みは、意外と知られていません。
今回は、日本で最も組織構造が整備されている「東京都」の事例(2025年度計画)をベースに、「U-12のトーマスカップ」から「U-16の国体」までを見据えた、年単位のロードマップと仕組みを徹底解説します。
そもそも「トレセン」とは?
トレセンとは「ナショナルトレーニングセンター制度」の略称です。 チームとしての活動ではなく「個人のレベルアップ」を目的とした選抜活動です。
普段所属しているチーム(少年団やクラブチーム)の活動とは別に、月に数回、選抜されたメンバーが集まって質の高いトレーニングを行います。 ここで重要視されるのは、チームの勝利ではなく、「個の技術・戦術・人間性を高め、将来の日本代表につながる素材を発掘・育成すること」です。
【U-12】小学生年代:詳細ピラミッドと育成方針
小学生年代のトレセンは、裾野広く選手を発掘するために4段階のピラミッド構造になっています。
① ピラミッド型の階層構造(例:東京モデル)
東京都の場合、下から順に以下のステージがあります。
- ブロックトレセン(全16ブロック)
- 東京を16分割したエリアで活動します。
- 1ブロック|足立区・荒川区・墨田区・台東区(約40チーム)
- 2ブロック|江戸川区・葛飾区(約50チーム)
- 3ブロック|練馬区(約60チーム)
- 4ブロック|杉並区・中野区(約50チーム)
- 5ブロック|世田谷区(約40チーム)
- 6ブロック|板橋区・北区・豊島区(約50チーム)
- 7ブロック|渋谷区・新宿区・目黒区・文京区・千代田区(約40チーム)
- 8ブロック|大田区・品川区・港区・中央区・江東区・島しょ部(約60チーム)
- 9ブロック|調布市・三鷹市・狛江市・武蔵野市(約45チーム)
- 10ブロック|府中市・国立市・立川市・国分寺市(約45チーム)
- 11ブロック|町田市・稲城市・多摩市(約45チーム)
- 12ブロック|八王子市・日野市(約40チーム)
- 13ブロック|小金井市・清瀬市・西東京市・東久留米市(約40チーム)
- 14ブロック|小平市・東村山市・東大和市(約35チーム)
- 15ブロック|昭島市・武蔵村山市・福生市・あきる野市・羽村市・青梅氏・西多摩郡(約20チーム)
- 16ブロック|女子チーム(約30チーム)
- 人数: 1ブロック約30名
→ 約30人×15ブロック(男子)=約450人 - 活動頻度: 年間7回(各2時間)程度
- 東京を16分割したエリアで活動します。
- 地域トレセン(全7地域)
- 数個のブロックから推薦された選手が集まる広域トレセン。ここに入ることが「都トレセン」への推薦要件となります。
- 構成: 全7地域
- 第1地域|5ブロック、7ブロック、8ブロック
- 第2地域|4ブロック、6ブロック
- 第3地域|1ブロック、2ブロック
- 第4地域|3ブロック、13ブロック
- 第5地域|14ブロック、15ブロック
- 第6地域|9ブロック、10ブロック
- 第7地域|11ブロック、12ブロック
- 人数: 1地域 約30名
→ 約30人×7地域=約210人 - 活動頻度: 年間6回(各2時間)程度
- 東京都トレセン(都TC)
- 東京の頂点。各地域トレセンからの推薦選手で構成されます。
- 人数: 約60名
- 活動頻度: 年間4回(各2時間)程度
②【保存版】U-12選考・活動スケジュール
小学生年代のトレセン活動は、トレーニング以外に、学年ごとに「目標(ベンチマーク)」となる大会があります。4年生の冬から始まる選考の流れを時系列で整理しました 。
| 学年・時期 | 活動・選考の流れ | 目標となる大会(ベンチマーク) |
| 4年生 (冬) | 【すべての始まり】 新年度U-11(5年生)に向けたブロックトレセン選考会が開催されます。 ※各チームからの推薦やセレクションで合否決定。 ▼合格者の分岐 ① 地域トレセン選考会へ推薦(さらに上のステージへ) ② キッズエリートプログラムへ参加(優秀者10名前後・単発活動) | トレセン活動への入り口 (まずはここを突破する!) |
| 5年生 (通年) | 【ブロック・地域トレセン活動】 年間を通して活動。 ※年度途中での追加招集や入れ替えも行われます。 ▼冬の動き ブロックトレセンの活動における集大成として、選抜大会に参加します。 | ジークカップ (東京都5年生選抜大会) ※各ブロック選抜チームで戦うため、トレセンメンバーの中からさらに選抜されて出場します。 |
| 6年生 (春) | 【都トレセン選考会】 例年3月〜4月頃、新U-12の東京都トレセン選考会が開催されます。 ※地域トレセンからの推薦選手が対象。 【玉突き人事による追加招集】 上位の選手が「都トレセン」に合格して抜けるため、空いた枠を埋めるために地域・ブロックトレセンで追加招集が行われることが多いです。 | 東京都トレセン (東京のトップ60名に入る) |
| 6年生 (夏) | 【都トレセン活動】 都トレセンメンバーから選抜された選手は、他県との交流戦へ。 | 関東MTM交流戦 (関東の都県トレセン同士の真剣勝負) |
| 6年生 (秋) | 【ブロック・地域活動の集大成】 ブロックトレセン所属選手にとっての最大の目標はトーマスカップ。各ブロックの選抜チームが激突します。 【都トレセン活動】 ブロックトレセンや地域トレセンに比べると少なめの年4回程度のトレーニング。ただし、関東交流戦など重要な活動がある。 | トーマスカップ (東京都選抜U-12サッカー大会) 関東トレセンU-12マッチデー (都トレセン選抜メンバー) |
| 6年生 (冬) | 【最終章】 都トレセン活動の総決算。ここで高い評価を得ると、中学年代の「ナショナルトレセン」への推薦候補となります。 | 関東選抜少年サッカー大会 (2月〜3月開催) |
③ 何を練習するのか?「Tokyo U-12’s way」
東京都では、理想の選手像として「Tokyo U-12’s way」を掲げています。選考では単に足が速いだけでなく、以下の要素が重視されます 。
- 観て判断する: ボールがない時(オフ・ザ・ボール)に周りを観ておく。
- 判断を伴ったテクニック: プレッシャーの中で正確に「止める・蹴る」ができる。
- 攻守に関わり続ける: 攻撃だけでなく、切り替えや守備もサボらない。
- リスペクトの心: 審判、相手、用具を大切にする。
また、具体的なトレーニングテーマとして「動きながらのテクニック(攻撃)」や「チャレンジ&カバー(守備)」が必須項目とされています 。
④ 計画的なステップアップ(逆算の思考)
U-12で頂点を目指すなら、逆算した計画が必要です。
- U-10(4年生): 「キッズエリート」などで頭角を現す 。
- U-11(5年生): ブロックトレセンに入り、5年生選抜大会(ジークカップ、JA東京カップ等)で活躍して「地域トレセン」候補に入る。
- U-12(6年生):年度初めの選考会で東京都トレセンに選れる。その中でも活躍し、関東交流戦メンバーに選抜されること。ここで評価されれば、U-13年代の「エリートプログラムやナショナルトレセン」への道が開けます 。
【重要コラム】U-13進級時は「最大の入れ替え」チャンス!
U-12で都トレセンに入れなかったとしても、諦める必要は全くありません。むしろ、中学に上がる「U-13」のタイミングこそが、最大のチャンスとなります。
なぜなら、U-12都トレセンで活躍したトップ層の多くは、Jリーグの下部組織(J下部)に進むからです。 東京都の規定では、「Jクラブ進学者は、U-13都トレセンの選考会には参加しない(推薦対象外)」となっています。
つまり、どういうことが起きるかというと、
- U-12都トレセンの主力(数十名)がJ下部へ進み、トレセンから抜ける。
- U-13都トレセンの枠が大量に空く。
- これまで「地域トレセン」止まりだった選手に、昇格のチャンスが回ってくる。
この「J下部組の離脱」という大きな出来事により、U-13のスタート時点では勢力図がガラリと変わります。これまで地域・ブロックで力を蓄えてきた選手にとっては、ここが最初にして最大の「下剋上」のタイミングなのです。
【U-15】中学生年代:構造変化と「3つのルート」
中学生(U-13〜15)になると、トレセンの選考ルートが「ブロック」から「地域(7地域)」中心へと変化し、所属チームによってルートが分岐します。
① 基本ルート:地域からスタート
U-12時代はブロックトレセンが入り口でしたが、U-13以降は「地域トレセン」が選考のスタートラインとなります 。 各チームから推薦された選手は、まず所属エリア(第1〜第7地域)の選考会に参加し、そこから「東京都トレセン」を目指します。
② Jクラブ進学者はトレセンにいない?(Jクラブルート)
「ナショナルトレセン(日本代表候補)」の名簿を見るとJ下部組織の選手ばかりですが、実は中学年代の初期段階(地域・都トレセン)には、Jクラブの選手は原則として参加していません(あくまで東京の例)。
- 都トレセンへの推薦除外: 東京都の資料には「東京トレセンU-12より、東京トレセンU-13選考会へ選手を推薦する。(Jクラブ進学者除く)」と明記されています 。
- 合流地点は「関東・ナショナル」: Jクラブの選手は、日常の環境が高レベルであるため初期トレセンは免除され、「関東」や「ナショナル」の選考段階から合流してきます。
③ 中体連にも「世界と戦うチャンス」がある!(中体連ルート)
部活動(中体連)の選手ももちろん、トレセンの対象になりますが、J下部やクラブチームの選手相手だと選考通過はなかなか難しいところです。
しかし、東京の場合は、中体連独自で「支部選抜(11支部)」→「地域選抜」→「東京都中体連選抜」という独自ルートが整備されています。 特筆すべきは、毎年ゴールデンウィークに行われる「東京国際ユース(U-14)サッカー大会」の存在です。
- 中体連選抜も参加: この大会には、海外の強豪チーム(パルメイラスやカイロなど)、Jリーグ下部組織、そして「東京都トレセン選抜」や「東京中体連選抜」が参加します。
- 下克上のチャンス: 普段のリーグ戦では戦えないJクラブや海外チームと、同じ土俵で真剣勝負ができる貴重な機会です。実力的には「J下部 > 都トレセン > 中体連選抜」という図式になりがちですが、ここで活躍すれば高校年代のスカウトの目に留まる可能性も十分にあり、中体連ルートは決して侮れない「裏の王道」とも言えます。
④ 目指すべき頂点「ナショナルトレセンU-14」
中学生年代の大きな目標となるのが、JFAが主催する「ナショナルトレセンU-14」です。 都トレセンや関東交流戦などでの活躍、あるいは中体連選抜でのパフォーマンスが評価されることで、この全国舞台への切符が手に入ります。U-14でナショナルに入るには、U-13の段階で都トレセンに食い込んでおくことが重要です。
【U-16】高校生年代:最終目標「国体」
高校生(U-16)になると、「トレセン」という名称での活動から、より実戦的な「代表チーム」としての活動へとシフトします。その最大の目標が「国民スポーツ大会(国体)」です。
① 「東京都トレセンU-16」=「国体選抜」
高校1年生年代のトレセン活動は、事実上の「国体東京代表」の強化活動となります。 東京都の強化カレンダーを見ても、U-16のスケジュールには「国スポ少年男子」という記載が並びます 。
② Jユースと高体連の融合
国体チーム(東京都選抜)は、FC東京U-18などの「Jクラブユース」と、帝京・國學院久我山などの「高体連(高校部活)」の選手が混成でチームを組みます。 普段はライバルとして戦っているトップレベルの選手たちが、「東京代表」として一つになる。これがU-16年代のトレセン活動の醍醐味です。 国体メンバーの選考は、高校入学後のパフォーマンスだけでなく、中学時代(U-15)までのトレセン歴や代表歴が重要な参考資料になります。
知っておきたい「隠れたメリット」:コネクションとスカウト
トレセン活動に参加する最大のメリットは、技術向上だけではありません。実は、将来の進路に直結する「出会い」と「発見」の場でもあります。
① 指導者は「未来の監督」かもしれない
トレセンのコーチを務めているのは、地域の強豪街クラブの監督や、Jクラブ下部組織のコーチ、強豪高校の指導者たちです。 彼らと一緒にトレーニングすることで、自分のプレーを直接アピールできるだけでなく、「顔と名前を覚えてもらえる(コネクションを作る)」貴重な機会となります。
② 「交流戦」はスカウトの見本市
都トレセンや地域トレセンに選ばれ、関東交流戦などの対外試合に出場すると、そこには多くのスカウトの目が集まります。 Jクラブや強豪高校のスカウトにとって、各地域のエース級が一堂に会するトレセンの試合は、効率よく逸材を発掘できる絶好の場所なのです。
特に「東京国際ユース」のような大会では、他県トレセン(宮城などはベガルタ仙台の下部組織選手も含まれるケースが多い)とも対戦できるため、自分の立ち位置を客観的に把握し、アピールする絶好の場となります。
③ 埋もれた「個」が見つかる場所
「所属チームが弱くて大会で勝ち上がれない」「チーム戦術に合わず評価されていない」 そんな選手でも、トレセンというフラットな場で個人の能力(スピードや技術、サイズなど)を示せば、一気に評価を覆すことができます。 「チーム活動では見つけてもらえなかった才能を、トレセンで見つけてもらう」。これが、トレセン制度が持つセーフティネットとしての重要な機能なのです。
まとめ:年単位で「計画的」に上を目指そう
トレセン制度は、一夜にしてスターが生まれる場所ではありません。 U-12からU-16まで、各年代で用意された階段を一つずつ、確実に登っていく必要があります。
- U-12のトーマスカップに出たいなら: U-11のブロック選考から勝負は始まっている。
- U-14のナショナルに入りたいなら: U-13の最低でも都県トレセン選考を突破しなくてはならない。
- U-16の国体に出たいなら: 中学時代に「都トレセン」などで実績を残しておく必要がある。
「いつか選ばれたらいいな」ではなく、「次の選考会までに何をすべきか」を逆算して考えること。 その計画的な積み重ねこそが、日本代表やプロという大きな夢への最短ルートになります。


